つくり手インタビュー
仙台市宮城野区にある『茶房 藤』は、主婦の庄司恵子さんが「地域の人たちが集まれる場所を」と、自宅敷地内の建物を改装してつくった場所です。「コミュニティカフェにする予定だったけど、フェリシモさんの仕事をするようになってから、すっかり手仕事の作業場になっちゃいました(笑)」と顔をくしゃっとさせて笑う庄司さん。作業場の中では、女性たちがお茶を飲んで談笑しながら、せっせと手仕事に励んでいました。

左から鈴木さん、阿部さん、下山さん、とよこさん、藤田さん、庄司さん、児島さん
一本の糸がみんなをつなげてくれた
——この場所はどうやって生まれたんですか?
庄司さん:地域の人やボランティアの人がお茶を飲めるカフェをつくろうと思ったんです。最初は蔵で始めようと思っていたんですけど、保健所の許可が下りなくて。この小屋はカナダの大工さんたちがこの辺りにボランティアに来たときに建ててくれたの。床にフローリングを張るのなんかは私が半分くらいやったんですよ。
——『つぎはぎすっぺっ茶』という看板がかかってますね。
庄司さん:それは、フェリシモさんの仕事を受ける前からやっていた縫い会の名前。穴の空いたところに布を当てると丈夫になるでしょ。だから、穴が空いた心につぎはぎしようって。それと、全国から送ってくれた布のどんな端切れも無駄にしたくないっていう想いもあってさ。このあたりでは「〜すっぺちゃ」って方言があるのよ。それとお茶っこもかけて。家を流されたり家族を流されたりしても、みんなで一緒にお茶っこすると気持ちが和らぐからね。
——確かに、ここの雰囲気、とても落ち着きます。
庄司さん:ごめんなさいねー、散らかってて!でもさ、気取らないで来れる場所にしたくて。お洒落して行くようなところはまちにあるもんね。サンダルで来てお茶っこ飲みして、長居できる場所。これが家だと、ほかの家族に遠慮しちゃったりするじゃない?ここは離れだから、気兼ねせずに長居できるよね。
——フェリシモさんとはどういうきっかけで?
庄司さん:人を介して児島さんに出会って、仮設住宅の作業所を紹介したんですよ。商品をつくってくれる人を探していたから。でも、つくるのが難しい製品で、みんなできなくて。私は負けず嫌いだから断るのが嫌で、「大丈夫です児島さん、うちで引き受けますから」って言ったんです。
——メンバーのみなさんは、元々庄司さんのお知り合いなんですか?
庄司さん:ほとんどね。ご近所さんで、声かけたの。
児島さん:下山さんは元々フェリシモのお客さんで、人づてに聞いて辿り着いてくれたんですよ。
阿部さん:手仕事がね、ほんとに上手。好きなのね、手芸が。娘さんも上手よね。やっぱり血は争えないわよね。
下山さん:いえいえいえいえ、そんなことないです。
家が流されて仮設暮らしをしている下山さんですが、フェリシモの仕事で貰った大事な工賃で、フェリシモの手芸キットを子どもに買い続けています。この日も娘さんが作業場に遊びに来て、せっせと手芸に励んでいました。そのエピソードを児島さんが社長にメールしたところ、「泣いてしまった!」とすぐに返事がきたそうです。
阪神大震災のときも、「フェリシモの商品が届くことが習慣だったから、フェリシモを再開することは非日常が日常に戻る象徴だ」と言ってくれるお客さまがたくさんいたのだとか。児島さんは、そんな風に思ってもらえることがとても嬉しいのだといいます。
児島さん:そうそう、今日はまたお客さまから届いたメッセージカードを持ってきたんですよ。
——メッセージカード?
児島さん:このプロジェクトでは、全ての商品につくり手のお母さんの写真とメッセージの書かれたカードが同封されていて、そこにお返事を書いて送ることができるんです。
庄司さん:けっこうみなさん書いてくれますよね。なになに、「とても素敵な音色でした」…ああ、これオルゴールだわ。
鈴木さん:私の商品がカタログに載るのが楽しみだって書いてある。わー、ありがとうございます。
藤田さん:ほらほら、写真入り。コサージュつけてくれてるのね。結婚式でつけたんだって。そんなところまで進出したのねえ。こんな風につけてくれると、そこらに並べておくのと全然違く見えるね。すごく素敵。
庄司さん:こっちはタティングレースのこと書いてくれてるわ。
児島さん:思い出のタティングですね。
鈴木さん:あれは、ほんとにほんとにほんとに大変だった(笑)いくらやってもうまくいかないの。指はつるし、力が入って手が真っ赤になるし、「これは大変だわ、ダメだわ」って思いました。でも、「もうちょっと頑張ろう」って言われて。
——そんなに難しいんですか。
児島さん:最初は絶望感しかなくて、これは無理かなーと思ったんですけど、一ヶ月後位に来たら、「これつくったの」って袋にどっさり。
鈴木さん:なんで辞めなかったかっていうとね、「私いままで途中で何かを辞めたことってなかったよな、だったらこれだってなんとかなるんじゃないかな」って思ったの。それでまた頑張ってみたら、できたの。一回コツを覚えたら、「なんだこんなに簡単にできるんだわ」って(笑)
児島さん:そうやって、お母さんたちが「難しい」「無理」って言いながらも、最後は乗り越えてくれるところがすごく嬉しいんですよ。
庄司さん:児島さんは一回自分で試作してるからね。だから、みんなの大変さはわかってる。
児島さん:うん、よくわかる(笑)
とよこさん:児島さんがつまづくところは、私たちもつまづくから。
鈴木さん:そうですね。大変さを理解していただけるだけでもありがたいなって思います。
児島さん:製品の仕様も、庄司さんに相談しながら一緒に決めたりするんです。そういうことができるのは、助かりますね。
庄司さん:仕事に教えられる部分もありますよね。「どうしたら効率あがるかな、上手くいくかな」って考えながらやっているから。児島さんに教えられたのと違う手順を提案したりね。
藤田さん:庄司さんは上手だから、そこが基準になると厳しいんですよ(笑)
児島さん:でも、そのおかげで仕上がりのクオリティがあがるんですよ。僕がいままで大事にしてきて、これからも大事にしなくちゃいけないのがそこ、クオリティの部分なんです。「東北のお母さんがつくった」っていう背景を隠しても売れるものを目指していかないと。ぼくは、みなさんはそうなっていけると思っていますから。
庄司さん:そうねえ、お涙ちょうだいじゃあねえ。
下山さん:いまこぎん刺しのブックカバーをつくってるんですが、刺繍がとっても綺麗なんです。これを無駄にしちゃったら申し訳ないなぁと思って、丁寧につくっています。
児島さん:フェリシモは、自社でオリジナル商品を企画して勝負している会社です。商品力こそが生命線。僕らはプロとして、お客さまがほしいと思ってもらえるものを企画しなくちゃいけないし、お客さまが納得してくれるクオリティを保たなくちゃいけない。このプロジェクトは、それに応えてくれるつくり手さんと出会わなければ商品化は無理でした。だから、こうしてハードルを高く設定してもついてきてくれるみなさんと出会えてよかったって思っています。
庄司さん:私たちも、フェリシモさんのおかげでいい経験させてもらっています。それにね、商品がたくさんあるから、手芸がだめな人でもオルゴールならつくれる人もいるでしょ。「難しい」って一度挫折したけど、また復活した人もいるの。そうやって、「この人はこれ」「この人はこれ」ってそれぞれ得意なことを活かして参加できるのはいいよね。
鈴木さん:そうそう。あのとき諦めていたら、私もいまここにいないしね。声をかけていただいて、児島さんにも本当に感謝です。一本の糸がみんなをつなげてくれました。
とよこさん:赤い糸かしら(笑)ほんと、ご縁なんでしょうね。
2014.3.25