つくり手インタビュー

石巻工房では、現在6人のスタッフが働いています。メンバーのひとり、佐々木伸さんは以前飛騨高山の家具メーカーで働いていたそう。経験者として、ほかのメンバーを指導しています。
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たとえるなら、「竹槍で戦う工房」

——どうして家具の世界に入ったんですか?

佐々木さん:最初はプロダクトデザイナーになりたかったんですよ。でも、デザイナーで求人探しても経験者じゃないと難しかったりして、なかなかなくて。近い職業ないかなと探していたら、家具製造員というのを見つけて、それはけっこう求人があるな、と。それで、飛騨高山の家具メーカーに入りました。

その後もっと学びたくて大学の建築科に入ったり、ほかの仕事を経験したりと色々あったんですけど、やっぱりものづくりが性に合ってる…っていうか、自分に対して正直かなという感じがして、戻ってきました。

——石巻工房には、どんなきっかけで入ったんですか?

佐々木さん:震災後に仙台市が実施した事業の一環で、CADのスキルを学んでいたんですよ。最初の3か月は座学、後半の3か月は現場、というプログラムで。現場はどこにしようかなと思ってネットで探しているうちに、石巻工房に辿り着きました。面白そうだなと思って、まずは見学しにきました。2012年の7月のことでしたね。

——最初はどんな印象でしたか?

佐々木さん:ずっと仙台に住んでて石巻にはあんまり来たことがなかったんですけど、熱気があるなって。夏だったんで、お祭りとかもあって、エネルギッシュさに気圧されたというか。まずは話だけのつもりだったんですが、千葉さんに「じゃあ来る?」って言われて、「は、はい」って。「考えさせてください」なんて言える雰囲気じゃなくて(笑)それからずっと働いていますね。
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——実際に働いて、いかがでしたか。

佐々木さん:う〜ん、おおらかというか、なんというか…(笑)でも、しっかり者のメンバーが入ったり、会社化したりで、だんだんしゃきっとしてきましたね。

——工房を見渡すと、みなさんテキパキ働いていますもんね。腕も上がっているんですか?

佐々木さん:そうですね。僕が入った頃と比べると、クオリティは上がっていると思います。…みんな気づいてないけど、クオリティを上げた貢献度は、意外と僕、高いんじゃないかと(笑)

——おお!自信!(笑)それはどういう部分で、ですか?

佐々木さん:あんまり誰も言ってくれないから、自分で言っちゃいました(笑)具体的には、ピシャッと隙間なく仕上げることにこだわったり…ですね。

本当は効率とか採算性を考えると時間をかけすぎるのはよくないんだけど、当時はゆるかったので、時間をかけて細部にこだわってつくってみました。言い訳かもしれないけど、はじめは時間がかかっても、その次は半分の時間、その次はそのまた半分の時間、と短縮できるだろうと。実際、慣れると早くできるようになりました。

——どうすればピシャッと仕上がるんですか?

佐々木さん:ちゃんとした寸法を出して正確に切ったり、ビスを垂直に打ったり…。あたりまえのことをあたりまえにするだけなんですけど…。でも、それがちゃんとできていれば仕上がりが綺麗になりますね。
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——この仕事をやっていてよかったなと思ったときってどんなときですか?

佐々木さん:やっぱり、出来栄えを褒められたときですかね。すごく時間をかけてつくった製品があったんですけど、「この値段でこのクオリティはすごい」ってネットにレビューがついて、「やっぱり」って(笑)…それは嬉しかったかな。

“やりがい”って漠然としているじゃないですか。主観でしかないというか。たとえば営業マンだったら数字っていうリアリティがあるけど、ものづくりにはそういうのがない。常に不安。そんな中で、実際に喜んでくれているお客さんの声っていうのは嬉しいですよね。

——石巻工房の面白いところや、魅力ってどういうところだと思いますか?

佐々木さん:ほかにない製品ですからね。それがいいって言って、お金を出してくれる人がいるっていうのがありがたいところですね。

設備とかは、正直ヘボいわけですよ。バリバリの家具メーカーをアメリカ軍だとすると、こっちはまるで竹槍(笑)でも、最新式の武器を揃えることをゴールにせず、竹槍でどう戦うかを考えている感じですね。竹槍は誰でも手に入れられるものだけど、「なるほど、そんな使い方もあったのか」みたいな(笑)
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——何か、読者に伝えたいことはありますか?

佐々木さん:そうですね…。うーん、なんだろう。こんな風に取材を受けることって初めてで、千葉さんみたいに喋り慣れてないから、難しいです。何かある気がするんだけどな…。

——どういう人に買ってほしい、とかありますか?単純に、製品を気に入ってくれた人でしょうか。

佐々木さん:ああ、そうですね。そうだな。石巻だから、被災地だから、誰々のデザインだから、とかじゃなくて。製品そのものを見て、「ほしいな」と思ってもらいたい。ものってそうあるべきなんじゃないかな。

——製品を「いい」って買ってもらえるのは、職人冥利につきますよね。私もいつか、KOBO SOFAを買いたいなと思ってます。

佐々木さん:ありがとうございます、ぜひ。ちなみに、ソファのフレームはほとんど僕がつくっているんですよ(笑)サイズとかご要望に応じるんで…あ、そうだ。言いたいことありました。

うちでは、ちょっとしたオーダーメイドも受け付けているんですよ。たとえば、KOBO SOFAは1人分の製品と2人分の製品があるけど、「ちょっと寝転がれる1,5人分がほしい」とか。既製品はデザイナーが考えたものだけど、そういうときは、要望に合わせて僕らでざっくりした寸法を考えて、「こんな感じですか?」って提案します。それで喜んでもらえると嬉しいですね。

そこらへんあんまり知られていないので、「そういうのもやっているよ」とお伝えしたいです。

2014.3.24