物語後編

東北へ幸せを運ぶ鳥、totoRi

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ワークショップは、再開前の銭湯や仮設住宅などさまざまな場所で開催しましたが、その度に大好評。必ずと言っていいほど、「すごく楽しかった、また来てください」と言われたそうです。

保手濱さん:そんなに喜んでもらえるなんて、驚きました。こちらこそありがとうと言いたかったです。東京から教えにいったママたちも、役に立つことができてとても喜んでいました。

そうしているうちに、石巻のママたちがどんどん上達していったので、作品をブランド化して販売することに。2012年6月、第1号製品『とりのブローチ』が生まれました。素朴さがありながら発色が鮮やかで、シンプルなワンピースやバッグによく映えそうです。

保手濱さん:それまでは好きなものを自由につくってもらっていましたが、きちんと販売していける商品を開発することになりました。元気になるような明るい色合いで、親子で付けることもできる、シンプルなデザインにしました。「被災地」という言葉を抜きにしても買ってもらえるものをつくりたいと思っています。

鳥をモチーフにしたのは、鳥が何かを運んでくる存在だから。東北へ幸せを運ぶ、東北から幸せを届ける、そんな意味を込めて、ブランド名も『totoRi(トトリ)』としました。

その後『totoRi』では、『ぽんぽんヘアゴム』『ぶたさんブローチ』『星のキーホルダー』『ぼたんピン』といった製品を次々と発表。どれも、見ているだけで優しい気持ちになりそうな可愛らしい製品ばかりです。

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完成した製品はオンラインショップで販売。また、東京のママたちが、休日にイベント等に出店して販売しています。昨年には初めて海外での販売も。いまではすっかり石巻のママたちのほうが上手になってしまったので、現地を訪問して教えることはしていません。でも、支援を通じて仲良くなった東京のママたちはサークルのように集まりを続け、石巻のママたちともフェイスブック等を通じて交流しているそうです。

自分がつくった製品が売れることで、自信が出る

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いま、石巻で『totoRi』を製作しているのは、30代を中心とした女性たち数十名。そのほとんどが、震災前は専業主婦をしていた方です。

保手濱さん:東京ではワーキングマザーなんて普通ですよね。でも、地方ではまだまだ専業主婦が多くて、働いたことのない女性もたくさんいます。このプロジェクトは小さな活動ですが、自分で働いて稼ぐことの大切さや喜びに気づくきっかけになってくれたらと思っています。

つくり手のママたちも、自分でつくった作品でお金を稼ぐことに喜びを感じ、やりがいを持って続けているそう。震災での被害から少しでも早く立ち直るための助けになっているようです。

保手濱さん:ママたちからの「働いたお金で○○を買いました」なんて報告を聞くと、こちらもやっていてよかったなぁと思います。

東京でシングルマザーとして小さな子どもを育てながら会社を経営するというのは、それだけで大変なもの。そこに更に東北支援も、となると、保手濱さんの苦労は想像に難くありません。

保手濱さん:最初の頃は本当に大変でした。子どもがいると、自分に使える時間がほとんどないんです。仕事に没頭していたらいつの間にか保育園のお迎え時間を過ぎていたり、それでも仕事が終わらず夜中に作業をしたりということの連続でした。

よく、「子どもができると、やりたいことができなくなる」といわれます。でも、仕事と家事と育児の合間を縫って活動を続けてきた保手濱さんや、周囲のママたちの姿を見ると、子育て中でもできることはあるんだと希望が湧いてきます。

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保手濱さんは、最初からこのプロジェクトをゆくゆくは現地の方に全て任せたいと考えていたそうです。今は現地の女性が、『東北ちくちくプロジェクト』の活動に参加するうちに愛着を持ち、現地でママたちの取りまとめをしてくれています。

保手濱さん:私たちがしているのは、与えるだけの支援ではなく、自立するためのお手伝い。これからは、東京での活動サポートという立場になります。

今後はサポーターとして、新しいことにも挑戦していきたいと話す保手濱さん。新製品の開発や他メーカーとのコラボなどを計画しているそうです。


保手濱さん:これからは地方の時代ですよね。今まではなにをとっても東京が一番だったのが、最近は地方発信の文化や活動が注目されてきています。石巻にも、色々な活動をしている団体やアーティストがたくさんいるんです。ちくちくプロジェクトもそのひとつになれたら嬉しいし、プロジェクトに関わった人が、なにか他に新しいことを始めてくれたら、もっと嬉しいです。

自分の手を動かして生み出した製品が、東京をはじめ全国で購入され、お金になって戻ってくる。それは、今まで働いていなかったママたちにとって、新鮮な驚きだと思います。「養われるだけじゃなくて、自分で稼ぐこともできる」「支援を待つだけじゃなくて、自分たちで復興のために動いていける」「地方発信のものに全国の人が注目してくれる」…そんな風に自信を持ったママたちから、新しいものが生み出されていくのかもしれません。


保手濱さん:そのためにも、この活動をもっともっと広めていけたらと思っています。

2014.3.5