物語前編

震災後、東北の支援活動をしたくてもなかなかできず、ジレンマを感じていたママたちはたくさんいたといいます。シングルマザーの保手濱歌織さんは、そうした女性たちと一緒に『東北ちくちくプロジェクト』を立ち上げ、手づくりの羊毛フェルト作品を石巻へ送り始めました。
ぬくもりのある作品は現地のママたちから好評で、「自分もつくりたい」という声があがったため、つくり方を伝授。現在は石巻でつくられた製品を東京のママたちが販売しています。
働くママにできること
保手濱さんは、銀座で制作会社を経営するワーキングマザーです。東日本大震災の発生後すぐに「何かできることはないか」と考え、4日後には紙オムツや粉ミルクといった子ども用品を集めて被災地へ送る活動を始めました。
保手濱さん:子ども用品って、子どもの成長が早くて使わずに余ってしまったりするものなんです。「わざわざ買わなくてもいいので、家に余っているものを送ってください」と、子育てブログで呼びかけました。
人気ブロガーの友人が賛同してブログで紹介してくれたんですが、ものすごい量の物資が送られてくるようになって。毎日ダンボールの山がオフィスに届いて、はじめはどうしようかと思いました(苦笑)
自分たちだけではとても仕分けられない量だったのでボランティアを募集したところ、ブログを見た子育て中のママたちが手を挙げてくれました。「何かしたい」という気持ちを持ちながら、小さな子どもがいるので支援活動に参加できず、歯がゆい想いをしていた女性はたくさんいたのです。
保手濱さん:「うちのオフィスは玩具もあるし子ども連れでも参加できますよ」と呼びかけたら、ベビーカーを押してたくさんのママたちが来て、仕分けを手伝ってくれました。
当時は行政も人手が足りず、市役所などに届いた物資はそこで止まってしまっているという話を聞いたため、インターネット上で物資の募集をしている団体を探し、必要な分を直接送りました。そうした細やかな仕分け作業は、本当に大変だったといいます。
保手濱さん:被災地の状況は、刻一刻と変わっていました。昨日募集されていたものが、今日は募集停止になっているなんてこともある。だからまずはとにかく物資を集めようと、ブログで発信しました。
でも、最初に送り先が決まるまでは不安でしたよ。もしも送り先が見つからず、これだけの量を無駄にすることになったらどうしようって。でも、実際に物資を届けるととても感謝されて、「またお願いします!」と声をかけられました。やっぱりこの活動を続けて行こうと思いました。
女性目線での支援活動を
そうして物資の送付を継続的に行う中、保手濱さんたちは石巻を訪問。おもちゃを募集していた雑貨店に直接届けました。
保手濱さん:初めて石巻を訪問したのは2011年5月のことだったんですが、すでにイオンなどの量販店は再開していました。でも現地の女性たちから、「量産品は手に入るようになったけど、心のこもった一点ものや手づくりのぬくもりのあるものが手に入らない」という要望を聞いたんです。
東京に戻った保手濱さんはさっそく、手芸の講師をしているママ友に相談。「羊毛フェルトクラフトなら、誰でも簡単に始められるからいいのでは?」とアドバイスをもらいました。羊毛フェルトクラフトは、ふわふわの羊の原毛に専用のニードルをちくちくとを刺していくことで出来上がります。あたたかみのある仕上がりも気に入り、さっそくママたちを集めて講習会を実施。ほぼ毎週末集まってそれぞれ作品をつくり、完成したものは石巻の雑貨店で販売してもらいました。
保手濱さん:現地の方から、「支援物資のおもちゃをお礼も言わずに持っていってしまう子どももいる」という話を聞きました。震災からたった2か月で、まだ信号もついていない時期だったのに、「貰うことが当たり前」になってしまっている。これはそろそろ、物資を送るだけの支援ではいけないなと感じたんです。「欲しかったらお金を出して買って下さい」というメッセージを込めて、100円、200円など少額ですが、値段をつけました。
あたたかみのある羊毛フェルトのアクセサリーは好評で、送るたびにすぐ売り切れてしまったといいます。そのうち「自分でもつくってみたい」という声があがってきたので、2011年12月、東京のママたちと一緒に、石巻でワークショップを開催しました。
保手濱さん:仮説住宅が建ち、物資がきちんと届くようになっても、現地では「毎日をどう過ごしたらいいかわからない。不安な気持ちが消えない」という人も多い。物質的な支援だけではなく、もう少し被災地の人の気持ちに寄り添った支援活動をしたいと考えました。
2014.3.5