つくり手インタビュー

岩本舞さんは、4 歳の男の子を持つシングルマザーです。2012年の春から、石巻のつくり手さんたちのとりまとめをしてきました。2014年4月からは、「東北ちくちくプロジェクト」の代表として団体を運営していきます。このプロジェクトへの想いや、今後の展望についてお話を伺いました。
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「諦めなければ、夢は叶う」って伝えたい

——岩本さんは、震災前もお仕事をされていたんですか?

岩本さん:いえ、専業主婦でした。以前は仙台で百貨店に勤めていたんですが、結婚して石巻に嫁いで、しばらくは子育てに専念していて。本当は震災があった年の4月から法務局で働く予定だったんですが、震災の影響でその話がなくなってしまったんです。私の周りにも亡くなった人がいて気持ちも落ち込んでいたし、当時は瓦礫撤去のような男性の仕事しかなかったので、半年位は働いていませんでした。

その後、再び仕事をしようと動き始めましたが、小さい子どもがいると、条件に合う職場を見つけるのがなかなか難しいという現状にぶつかりました。「保育所に預けるっていっても、病気のときは帰っちゃうんでしょ?」という感じで。だから、自分で何かを始めたほうが早いな、とはずっと思っていました。でも、そうは言っても何から始めたらいいかわからなくて。

その後、縁あって子育て支援団体で働くことになって、しばらくは事務や企画の仕事をしていました。そこの会員さんのひとりがちくちくプロジェクトのワークショップに参加して、保手濱さんのことを紹介してくれたんです。

——それが保手濱さんとの出会いだったんですね。

岩本さん:お話を聞いて、女性目線での復興活動や、子どもを持つ母親の仕事場づくりなど、「あ、自分が考えていたことと近いな」と思いました。それで、「こっちでつくり手さんのとりまとめをしてほしい」と言われて、「ぜひ」って。

——ほかのつくり手さんたちは、どんな動機で参加されていたんですか。

岩本さん:やっぱり、働きたくても子どもを預けることができないお母さんが多かったですね。また、家族全員を亡くして、仮設住宅にひとりでいると気が滅入ってしまうから、何か集中できるものがほしい、外に出るきっかけがほしい、という方もいました。

でも、続けていくうちに、みなさんだんだん製作そのものが楽しくなって、これが生きがいのようになってきて。回数を重ねるごとに、顔が別人のように明るくなっていきました。

——そういう変化があると、嬉しいですね。

岩本さん:続けていたらちくちくプロジェクトの知名度も上がってきて、ほかの仮設住宅から「羊毛フェルトのワークショップをしてほしい」と頼まれるようになりました。つくり手のお母さんたちと一緒に行って教えるんですが、そういうことがあると自信につながりますよね。お母さんたちはみんな人の痛みがわかるから、「やってあげている」という意識が全然なくて、すぐに打ち解けられるんです。仲良くなっちゃうんですよ。

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——仕事を通して新たな出会いがあるっていいですね。

岩本さん:そうなんです。東京のお母さんたちからも刺激を受けていますね。いまでもときどき遊びに来てくれるんですよ。再会するとくだらない話で盛り上がっちゃって、ちくちくの話そっちのけで(笑)年末にはこっちから会いに行きました。みんなの顔を見ると元気になれるんです。会いにいける人がいる、会いにきてくれる人がいるって、いいですよね。

——素敵な関係ですね。最初からそんな感じだったんですか?

岩本さん:うーん…。最初は、やっぱり遠慮があったかもしれません。でも、あるとき子育てについての悩みをフェイスブックにぽろっと呟いたことがあったんです。そしたら、東京のお母さんたちがすぐに反応してくれて、真剣にメッセージを送ってくれて。「こんなに寄り添ってくれてたんだ」と気づいてから、腹を割って話せるようになりました。

それまでは、「支援してもらっているんだから、期待を裏切らないようにしよう」「仕事を与えてもらっているんだからやらなきゃ」ってどこかで思っていて。でも、それだと本当の意味では自立できないし、前に進めませんよね。自分でちゃんと「こうしたい」「こうなりたい」っていう夢や目標を、小さくても持つようにしました。そうしたら、本当にその通りになっていきました。夢は叶うんですよね。

——今年の4月からは、保手濱さんたちはサポート役になって、岩本さんが団体を運営していくんですよね。そこに不安はなかったんですか?

岩本さん:不安はありますよ、いまも。でも、不安や心配があるから「どうしようか」って考えるから、それでいいんだと思います。

つくり手のお母さんたちも不安はあると思うんですが、私についてきてくれるって言ってくれています。「2年間色々あったけど、岩本さんが私たちを守ろうとしてきたの知ってるから、ついていくよ」って。嬉しくて思わず泣いちゃいました。

——今後、どういう団体にしていきたいですか?

岩本さん:いまは製作してもらった分の工賃を払う形をとっていますが、ゆくゆくはちゃんとお母さんたちを雇用したいですね。会社にして、月給を払いたい。「主婦でもやればできる」ってことを証明できたら素敵ですね。

石巻に限らずですが、家事育児ってどうしても女性がメインになりがちだと思うんです。その分お母さんたちはいろんなことを背負いこんでいたりするんですよ。よその土地から引っ越してきて、頼る人がいなくて育児ノイローゼになってしまったり。私も、以前は石巻に友達が一人もいなかったし、「お母さんはこうあるべき」とか、「こうするのが正しい」というのがたくさんありました。でも、それって本当の自分の気持ちじゃないから、苦しくなっちゃって。

ちくちくプロジェクトに参加するのも、最初は勇気がいりました。知識も経験も全くありませんでしたから。でも、始めてから、いろんな人に出会って、考え方が柔軟になっていきました。できなかったことが一つひとつできるようになって、会いたかった人と出会えるようになって。だから、いま窮屈な想いをしているお母さんが活き活きと働けるようになってほしいし、「諦めなければ夢は叶う」って伝えたいです。

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——お母さんが活き活きしていると、子どもも嬉しいんじゃないかと思います。

岩本さん:昔、子どもに聞いてみたことがあるんですよ。「お母さんとずっと家に一緒にいるのと、お母さんが働いて自分は保育園に行くのと、どっちがいい?」って。そしたら、「働いているほうがいい」って。朝、お化粧してお仕事に行く姿が好きだって言ってくれたんです。それと、ちくちくしている姿も、安心するみたい。つくり手のお母さんたちの子どもはみんな、お母さんがちくちくしていることを自慢するんです。totoRiをつけて、「これママがつくったんだよ」って。

——そういうの、いいですね。これからやってみたいことはありますか?

岩本さん:最近、石巻で羊を育てている人を紹介してもらったんです。その人は、羊毛を使ってくれる人を探していたそうで。染色も、石巻の農家さんのところで余った野菜の皮で染めるんですよ。たまねぎの皮とか、キャベツの葉とか、紫蘇とかどんぐりとかでも染められるそうです。石巻で育った羊の毛を石巻の野菜で染めて、石巻の女性がちくちくして商品にするって、素敵だと思いませんか?

ちくちくはたくさんの可能性を秘めてるって思うんですよ。やってみたいことがいっぱいあります。一つひとつ形にしていきたいですね。

製作工程

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何も手を加えていない羊毛は、綿菓子のようにふわふわの状態です。

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クッキー型に羊毛を入れ、ニードルと呼ばれる針で刺して形を整えます。
『星のキーホルダー』なら星の形、
『とりのブローチ』なら鳥の形のクッキー型を使います。

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ニードルの側面はギザギザに羊毛が絡まることで、だんだん固まっていきます。
30分くらいひたすらちくちく刺していくと、表面が滑らかになります。
「お金を出して買ってもらうものなので、
気持ちを込めてちくちくしないと」と岩本さん。

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仕上げに、羊毛が飛び出ているところをハサミでカットします。
この工程は岩本さんのアイディア。
何度も繰り返すうちに、こうすると綺麗に仕上がり
商品の持ちが良くなることに気づいたのだそう。
ここにゴールドのボールチェーンをつければ、
『totoRi 星のキーホルダー』のできあがりです。

2014.3.23