つくり手インタビュー

onagawa fishの製作は、「削り」「ヤスリ掛け」「塗装」と工程ごとに担当が決まっています。削りを担当している鈴木幸さんは、2011年6月から『小さな復興プロジェクト』に参加しています。
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「愛着があるから、修理してほしい」という声が嬉しかった

——震災前はどんなお仕事をしていたんですか?

鈴木さん:養殖のお手伝いをしていました。牡蠣の殻をむいたり、わかめの茎と葉っぱの部分を仕分けたり。

——どういう経緯でここの仕事をやることになったんですか?

鈴木さん:震災でこの近くに避難していたんですが、中学の同級生がここに通っているのを見かけて、紹介してもらったんです。家にいても、何もすることがないし時間がもったいないから。

(ここで、小学生の息子さんが「お菓子買いに行きたい」とねだりにきました。「だめ、お昼ごはんまで我慢しなさい」とピシリと嗜める鈴木さん)

——お子さんも工房に来ているんですね。

鈴木さん:はい、「連れて来ていいよ」って言われているので、学校が休みの日は連れてきています。やっぱり子どもが休みのときは一緒にいないとだから、前の職場のときは休ませてもらったりしていました。だから、夏休みや冬休みのような長期休みは大変です。でも、ここだと連れて来れるから、助かってます。

——みんな楽しそうに遊んでますね。小さな児童館みたい。

鈴木さん:そうですね、子ども同士も仲が良くて。ただ、危ないから機械にだけは近寄らないようにって言ってます。
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——ちょっと話を戻すと、木工ははじめてだったんですよね。見ているとかなり熟練した技術が必要そうですけど、苦戦しませんでしたか?

鈴木さん:はい、「削り担当ね」って言われたんですが、見ている限りでは、「私にはできないな」って思いました(苦笑)実際にやってみて、上手につくれるまでは苦戦しましたよ。自分のやり方に辿り着くまでは、けっこう失敗もしましたし。

——自分のやり方があるんですね。

鈴木さん:そうですね、見本を見せてもらっても同じようにはできないので、ある程度まで荒削りして、そこから仕上げて…って自分の感覚を磨いていきます。

——どういうところが難しいんですか?

鈴木さん:ちょっと間違えると、平らになったり、形が悪くなったりしちゃうんです。横から見たとき、綺麗なS字の曲線が出るように気をつけています。あと、しっぽの部分が細いと折れやすいのでだめ。リングを通す穴と先端の距離が近すぎてもだめ。やり直しになることもありますよ。

——細かい調整が必要なんですね。

鈴木さん:最初はけっこう指も削れちゃいました。擦り傷というより、火傷のようになるんです。指サックなどをつけても、それが削れちゃってあまり意味がないので。
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——大変ですね。逆に、この仕事をしていて嬉しかったことや楽しかったことは?

鈴木さん:イベントで販売していると、「もう持ってるけど、また違うのがほしい」とか、「友達に見せたら自分もほしいって言うから見にきました」って言われたりするんです。そういうのは嬉しいですね。

——お客様とのやりとりで、何か印象に残っていることがあれば教えて下さい。

鈴木さん:1度、修理の依頼が来たんです。「使っているうちにリングの目の部分が壊れちゃったから、直してほしい」って。一か所直すだけでもまた削る必要があるので全体的に小さくなっちゃうんですが、「買うのは簡単だけど、これ自体に愛着があるから、修理してもらってまた使いたい」って。「大事に思ってくれてるんだな」と思って嬉しかったです。

——今後の展望はありますか?

鈴木さん:いまは削り専門ですが、レーザー彫刻の機械もあるし、そういうのもできたらと思っています。腕を磨いていきたいですね。

製作工程

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最初はこんな四角い木片の状態。まずは、リングを通す部分に穴を開けます。

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次に、ベルトサンダーで荒削りします。
最初の頃は木片に魚の形を下書きしていたそうですが、
いまは書かなくても感覚でわかるようになったそう。
見る見るうちに、魚の形が現れてきます。
まさに職人技!

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3種類のヤスリで磨きます。120番のヤスリでデコボコを取り、240番で細かく削り、
水に濡らして毛羽立たせてまた磨き、最後に400番で仕上げてつるつるにします。

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午前中ずっと磨き続けてようやく5個分終わるか終わらないかの作業。
木の状態や気温等によって、その時間はさまざまです。
結露が多いと毛羽立ちやすいため冬は大変。
一晩経つと毛羽立ってしまい、100個中50個やり直しになることも。
肩は凝るし手も痛くなるので、なかなかの重労働です。

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ヤスリがけが終わったら、リングをつけます。
ただ、リングは固いので木に少し傷がついてしまいます。
そこをまた240番と400番で削るという念の入れよう。

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こちらの天然オイルを塗り、乾いたタオルで拭きます。
これで表面はしっかりコーティングされます。

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革の部分に焼き印を押して面取りし、ボンドでくっつけて通し穴をあけます。
焼き印は、+100円で好きな文字をオーダーすることもできるそう。

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革をリングに通せばできあがり!1,200円のキーホルダーをつくるのに、
ここまで手がかかっているとは驚きでした。
ただ、あまりにも手触りがすべすべなので、
工場で量産していると思われることもあるのだそう。
質の高さ故の悩みですね。量産なんてとんでもない、
丁寧すぎるほど丁寧に、愛情を込めてつくられていました。

2013.11.22