物語後編

1本でも多く売らないと気が済まない

¥IMG_6289_2

「親愛なるamaへ あなたたちは素晴らしい勇気を持った方々です。心から敬愛しています」。

これは、amaブレスレットのパッケージに書かれた、ジェーン・バーキンさんからの直筆応援メッセージです。村上さんから被災地の状況を聞いていたジェーンさんは、プロジェクトが始まる前から協力することを約束。実際に製品が仕上がるととても感激し、コンサートでオフィシャルグッズとして販売してくれています。

2013年5月、ジェーンさんは多忙の中スケジュールを調整し石巻を訪問。amaの女性たちも石巻へ行き、ようやく対面することができました。

村上さん:ジェーンが現れると、みんなわあっと駆け寄りました。つくり手の中に、普段は杖をついている80代の恵美子さんという女性がいるのですが、椅子に座って待っているかと思ったら、興奮のあまり杖なしでジェーンのところまで歩いていたんです。びっくりしました。

村上さんからamaの女性たちのことを聞いていたジェーンさんは、一人ひとりを励ますようにぎゅっと抱きしめてくれました。偉ぶったところがまるでなく、飾らないジェーンさんの態度に、amaの女性たちは感激したといいます。

村上さん:ジェーンは後になって、このときのことを「あんなに素敵な瞬間はなかった」と振り返っていました。「辛い体験をした人たちが、ひとつのことに向かって力を合わせて頑張っている姿に感動した」と。ジェーンはみんなで撮影した記念写真を自宅に飾っています。

¥IMG_6334

村上さんがパリのカフェでジェーンさんとお茶をしていたときのこと。ジェーンさんはテーブルの上に置かれたamaブレスレットを見て、「香住子、これは売りましょう」と言い、近くの席を回ってプロジェクトのことを説明、手元にあった30本全てを売ってしまったといいます。

村上さん:こういう製品に対して、有名人が「名前だけ貸す」というケースもあるでしょう。でも、ジェーンは本当にこのプロジェクトを自分ごとだと思っているのね。1本でも多く売らないと気が済まないの。少しでもamaたちの役に立ちたい、という気持ちが伝わってきて、じーんとしました。

からっぽだったところが満たされた

¥P1040309

今年9月、村上さんの知人で『湯島食堂』のシェフをしている本道佳子さんがama projectの作業所を訪れ、地元野菜を使って料理を振る舞ってくれました。amaの女性たちは、「普段食べ慣れているものがこんなに美味しくなるなんて!」と驚いていたといいます。

村上さん:震災から2年半が経ち、現地の女性たちもお洒落をしたい、外出したいという欲求が出てきました。復興への道程はまだ遠いけど、だからこそ、日々のゆとりや楽しみがいまは必要だと思います。過去のことばかり考えるのではなく、明るく楽しい未来をつくっていく。楽しそうにしていれば、自然に人が寄ってきて賑やかになるでしょう。次は何をしてみんなを驚かせようかと企んでいるんですよ。

活動を始めた当初、村上さんと現地の女性たちとの間には少し距離がありました。「東京から来た人が何を始めるのか」と警戒されていたのかもしれません。雰囲気も硬く、こわばっていたそうです。それが今では、冗談を言って笑い合える仲になりました。「雪解け、という感じですね」と村上さんは顔をほころばせます。

村上さん:震災前、20年ぶりの日本での暮らしに慣れることができず、どこかぼうっと過ごしていました。馴染みのお店もなくなってしまい、友達もいない。自分がからっぽのような気がしていたんです。

それが、ama projectを始めてから、一気に忙しくなってしまって。フランスの友人たちに背中を押され、「フランスのために」「東北のために」と始めた活動でしたが、思いもよらない出会いに恵まれ、たくさんの人との縁ができました。私自身が一番受け取るものが大きかったかもしれません。

¥??

村上さんは11月下旬に南三陸の漁師を主人公とした小説『そして、それから』(現代思潮新社)を出版予定。出版社さんのご厚意で、売上の一割がama projectの活動に寄付されます。

村上さん:ブレスレットに次ぐ新製品も開発したいし、人が気軽に集まれる場所もつくりたい。やりたいことはまだまだたくさんあります。細く長く、続けていきたいですね。

2013.9.10