物語後編

誰ひとり欠けたとしてもうまくいかなかった

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売れる商品をつくり、販路を広げていく。それはもちろん簡単なことではありませんが、一方で現地でつくり手の方に気持ちよく働いてもらうサポートをするのも、細やかな気配りと労力を必要とする大変な仕事です。

高津さん:私が幸運だったのは、遠野山・里・暮らしネットワークと出会えたことです。あとからわかったのですが、 代表の菊池さんは、ソーシャルビジネスやコミュニティビジネスの第一人者。自分で実践し、小さな成功事例をたくさんつくってきた人でした。

田舎には田舎の時間の流れがあり、流儀があります。都会のやり方や時間感覚をそのまま持ち込むと反発されて物事は進みません。菊池さんたちはそのことをよく分かっていて、地域の人を動かす方法を知っていました。

高津さん:一方で、スタッフの菊池瞳さんは以前東京のPR会社でバリバリ働いていて、都会のビジネス感覚や時間軸を持っていた方。少しタイトな納期でも、つくり手さんのケアをしながら前倒しに進め、ちゃんと納期通りに納品してくれました。「現場はこちらに任せて、高津さんは売ることに注力してください」と。頼もしいですよね。

販売開始から半年程経った頃、品質チェックをぐっと厳しくしたことがありました。最初はチャリティー感覚で売れたとしても、商品としてのクオリティが高くないとやがて買ってはもらえなくなる。つくり手さんに説明し、基準に達していないものは返品して編み直してもらいました。

最初はつくり手さんから文句や不満も出ましたが、だんだんと納得してもらえて、技術もどんどん向上していったといいます。

高津さん:私ももちろん現地に理由を伝えましたけど、菊池さんや瞳さんが現地にずっといて、つくり手の方と一緒に歩んでくれたことが大きかったと思います。

誰ひとり欠けたとしても、こんなふうにうまくは回らなかった。パズルのピースがカシャカシャとはまっていくみたいに、このプロジェクトに必要な能力を持った人が揃ってくれたと思います。選んで会いに行ったわけではないのに。思い返すと、ふしぎですね。

終わりを決めて、プロジェクトを始める

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岩手県宮古市、釜石市、大船渡市、陸前高田市、宮城県石巻市、東松島市。EAST LOOPの活動は遠野から始まり、ほかの地域にも広がっていきました。

高津さん:ひとつの地域に腰を据えてじっくり取り組むやり方もすばらしいと思いますが、私はいろんなエリアを訪れて困っている人たちを山ほど見てしまったので、どこでもだれでも関われるプロジェクトにしたいと思いました。気軽に入りやすく、抜け出しやすい。それはEAST LOOPとほかの団体との違いだと思います。
実際、EAST LOOPの活動を卒業した方もたくさんいます。それは私たちにとっては喜ばしいことなんです。

おなかが空いている人たちがいたら、まずは魚を与える。次は、一緒に魚を捕る。その次は捕り方を教え、最終的には自分たちで生きていけるようにする。途上国支援の現場でよく言われることです。EAST LOOPの活動も、最初から「一年」と期間を設定し、その後は現地に手渡そうと考えていました。

高津さん:EAST LOOPの仕事をつなぎとして、元の仕事に戻ったり、新しい就職先を探したりしてほしい。でも、もしこの仕事をずっと続けていきたいという声が挙がるなら、その方法は一緒に考える。つくり手の方には最初からそう説明して、「それでもいい」という人とだけやってきました。

EAST LOOPの商品が永続的に売れる保証はない。そのときに、つくり手の方がEAST LOOPによる収入を生活の糧にしていたら、終われなくなってしまう。「絶対に続けます」と意気込んでつくり手の方に期待をさせるのではなく、自分のできる範囲をきちんと提示して、納得してもらった上で関わってもらう。それは、高津さんが途上国支援の現場で起こっていることをたくさん見聞きしていく中で培われたスタンスでした。

高津さん:途上国支援を行うプロジェクトチームが、特産品を開発して現地に産業をつくる計画を立て、村人も農地を売って資金をつくった。そうして製品は完成したけれど、思うようには売れなかった。プロジェクトチームは期間や予算が尽きてさよなら。そういった話をよく聞いていました。農地は買い戻せないし、コミュニティは分断されてしまうかもしれない。現地の人にとっては死活問題ですよね。

支援をするのは素晴らしいことですが、いい加減な気持ちで始めてはいけないし、責任の持てる範囲でしかやってはいけないと思います。

勢いで始めてずるずると続けるのではなく、あらかじめ終わりを決めて、関係者にもそのつもりで動いてもらう。支援する側、よその地域に入っていく側にできる配慮のひとつです。

高津さん:ただ、2012年の段階ではまだ現地が全然変わっていなかったので、もう一年続けることにしました。いまは、ありがたいことに遠野山・里・暮らしネットワークさんが手を挙げてくれたので、福市が行っていた事務局業務を移管している段階です。

移管にあたり、さまざまな条件も変更するかもしれません。今までは売上の50%がつくり手に入る仕組みでしたが、これは本来ビジネスとしては成り立たない比率です。事務局を務める山里ネットにもきちんと利益が入るようにしなくては、継続していくことができません。条件が変わることはつくり手の方に提示し、続けるかどうかの選択は任せます。

EAST LOOPの体制や、売上の何%が生産者に届くかはウェブサイトでも公開していて、変更があった場合も告知します。東北の状況はどんどん変わっていくもの。EAST LOOPも変わらない努力をするのではなく、状況に応じて柔軟に変化しながら、それを関わる人にきちんと伝えることを大事にしています。

手仕事が傷ついた人の心を癒す

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2013年6月現在で、EAST LOOPの売上は約5,000万円。つくり手の方には2,500万円分のお給料を届けたことになります。これまでの活動を通して、つくり手や買ってくれた方とのあいだには、たくさんの物語が生まれました。

高津さん:震災のショックで、ほとんど何も食べられず、口も聞けなくなってしまったおばあちゃんが、EAST LOOPに参加することになったんです。仮設住宅にお邪魔して話をしたんですが、本当に落ち込んでいる表情で、私たちも腫れものに触るような感じで。それが、数ヶ月後に会ったら別人のように明るくなっていたんです。「楽しくって楽しくってしょうがないの。同じ仮説住宅の中に、家から出てこない人がいるから一緒にやらないかって誘ってるんです」って。「よかったぁ」って、心から思いました。

ほかにもね、商品を購入してくれた小学生から手紙が届いて、そこからつくり手のおばあちゃんと文通が始まったこともあって。「なんて書いてあるんですか」って聞いたら、「見せねえ、読んだら泣いちゃうから見せねえ、家帰って読む」って。

EAST LOOPの商品カードにはつくり手の名前を、HPには一人ひとりからのメッセージを掲載しています。購入してくださった方が、つくり手さんに向けてソーシャルメディアを通してメッセージを送ってくれることも多々。ネットが使えない方も多いので、事務局が出力して切り貼りし、一人ひとりに向けて送っています。

高津さん:「私がつくったものなんか売れない」と思っていた方が、「◯◯さんがつくったハートブローチ使ってます!」というメッセージを読んで自信をつけたりして。自分がしたことに、誰かがありがとうと言ってくれる。「東北がんばれ」という次元ではなくて、直接自分に向けて応援の気持ちが届く。自分のことを思ってくれている人がいる。それがすごく力になるんですよね。

手仕事が気持ちを前向きに、明るくしていく。それは、フェアトレードの仕事をしていたときから考えていたことでしたが、EAST LOOPの取り組みを通して、ますますそう思うようになったそうです。

高津さん:大事な人やものを失い、ずたずたに傷ついていた人たちが、ものづくりに携わるうちに、気持ちを取り戻していった。今回の震災で、そうした事例がたくさん生まれています。人の心を癒して前向きにする、手を動かしてものをつくることにはそういう力があるんですよね。それがもっと科学的に実証されて、医療現場にも取り入れられたらいいなと思います。

いま、被災地に限らず、心を病んでいる人がたくさんいますよね。薬を飲んで治療するのとは別の軸で、ものづくりに取り組むことで気持ちを立て直していくことができるんじゃないかと、そう思っています。

東北の傷ついた人を全国の人が支援するのではなく、東北の事例が全国の傷ついている人を救う。もしかするとこれから、そういった展開が待っているのかもしれません。

2013.6.11