つくり手インタビュー
陸前高田市の『再生の里ヤルキタウン』内にある手芸店『手づくりのお店 めぐみ』は、EAST LOOPのつくり手だった徳山恵美子さんが始めたお店です。遠野山・里・暮らしネットワークで現在EAST LOOPを担当している真山徳子さん、つくり手の河野康美さん、菅野由美子さん、大坂典子さんに集まっていただき、お話を伺いました。
EAST LOOPを通じて横のつながりができた
——皆さんはどんなきっかけでEAST LOOPに参加することになったんですか?
大坂さん:同じ仮設住宅の人が最初にやっていて、「こういうのがあるんだよ」って声をかけてくれたんです。それで、2時間ほどの講習会に参加してつくり方を教えてもらいました。2011年の10月頃だったかな。
菅野さん:私はそれまではスーパーでパートしていました。でも、震災でとても続けられなくなってしまって。何も仕事をしていなかったので、やってみようかなって。
——すぐに覚えられましたか?
河野さん:最初は細かくて大変でしたね。でも、皆さんに教えてもらいながら上達していきました。「自分がつくったものがちゃんと売れるのかな、帰ってきちゃったりしないかな」と心配だったので、売れたときはほっとしました。買ってくれた人から「いつも着ていた服がこのブローチをつけたら新鮮になりました」なんてメッセージが届いたりして。やっぱり反応があると嬉しいですね。
——ハートブローチ以外にはどんなものをつくったんですか?
大坂さん:母の日にはカーネーションのブローチ、クリスマスにはツリーをつくりました。ツリーは真ん中に芯があって大中小9枚の葉が重なっているんですが、1枚1枚取り外すとたわしにもなるんですよ。でも、もったいなくて使えないよね(笑)
河野さん:あと、ハートのラリエットもつくりました。これはけっこう難しくて、一度手を休めちゃうと次の工程がわからなくなってしまうんですよ。ただ、その分入ってくるお金も高いからやりがいがあります。

EAST LOOPでは、期間限定商品も多数つくっています。
——一度、品質チェックが格段に厳しくなったことがあると聞きました。
真山さん:そうですね。はじめのうちは手書きの仕様書を使っていたんですが、そのときに本格的な数枚の仕様書も作成して、皆さんに通達しました。でも、それがつくり手さんの意識が変わる良い機会になったんですよ。
大坂さん:やり直しになるとかなりショックで凹むんですが(笑)そのときを機に、最初は少しばらついていたのが、同じ大きさでつくれるようになりました。
真山さん:何度もやり直しになって、何度もつくってくれた方もいました。でも、元の職場に復帰することになって辞めた人はいても、嫌になって辞めた人はいませんね。
——みなさんは元の仕事への復帰は考えていないんですか?
菅野さん:子どもの送迎があるから難しいんです。高校が流れちゃったから、隣の市に通っていて。スーパーからは戻ってきてという話もあったんですが、時間的に無理ですね。
大坂さん:この辺りは海も近くて山もあって、以前は散歩するだけで楽しい場所でした。でも、波をかぶったところは景色ががらっと変わっちゃいましたね。震災直後は草も生えなくて。この頃ようやく緑が増えてきましたけど。
菅野さん:草が生えると困るところもあるけどね(笑)
大坂さん:この仕事と出会って、夢中になって取り組むことができたし、こういう横のつながりもできて、よかったです。ね。
一同:ね(笑)
お母さんたちが元気だと、世の中も明るくなる
——徳山さんは以前から手芸をされていたんですか?
徳山さん:手芸教室を開いていました。でも、津波で教室も作品も材料もすべて流されてしまって、すごく落ち込んでいました。「体が無事で自宅も残ったならよかったじゃない」と言う方もいましたが、自分の家も流されているのに、「徳山さん大丈夫?あれ全部流されちゃったんでしょう?」と心配して電話をくれた方もいて。自分が手づくりしたものへの愛着を知っている人は、惜しんで共感してくれるんですよね。そういう方の存在に救われました。
——EAST LOOPの活動には初期の段階から参加されていたそうですね。
徳山さん:そうです。山里ネットの菊池さんの奥さんと知り合いで、声をかけていただいて。EAST LOOPに出会って、手づくりの良さを再認識しました。仲間もできるし、一緒に頑張ろうという力にもなるんです。
お母さんたちが元気だと家の中が明るくなって、世の中も明るくなるじゃないですか。EAST LOOPの活動に参加できない方でも、自分の好きな手芸を通して元気を取り戻してもらえたらと思って、手芸の材料を売ったり講座を開いたりするお店を開くことにしました。
——元々陸前高田には手芸店はなかったんですか?
徳山さん:友人が経営していたんですが、津波で一家全員流されてしまって。後を継ぐ人がいなくなってしまったので、私がやろうと思いました。
問屋さんには品揃えに関するアドバイスをいただいて、高津さんや山里ネットさんからは行政の助成金や勉強会を教えていただき、いろんな人に助けてもらいながら進めていきました。お店のロゴも、高津さんの知り合いのデザイナーさんがつくってくれたんですよ。
——「熱意のある地元の人」と「豊富なノウハウを持った外の人」が組み合わさると強いですよね。
徳山さん:本当にそうですね。お店を「めぐみ」という名前にしたのも、自分自身がEAST LOOPの活動をきっかけに人や縁に恵まれて夢を実現できたからです。ここを訪れる皆さんにも、たくさんの恵みがあるといいなと思っています。
2013.6.11