物語後編

女子たちが地域を越えて支え合う

¥hero5 注文が増えてくるに従い小笠原さんひとりでは手が回らなくなってきたため、いまでは数人の内職さんに製作を手伝ってもらっています。「若い子が頑張っているから応援したい」という年配の方もいれば、「福島のために何かがしたい」と言ってくれる東京の女子もいます。ESMODの同級生、高橋由里子さんもそのひとりです。

小笠原さん:久しぶりに会ってpeach heartの説明をしたら、共感してくれて手伝ってくれることになったんです。最初は、こんな面倒くさいことを安い工賃でお願いするなんて嫌がられるかなと思っていたんですが、「東北のために自分にできることをずっと探していた、工賃なんてなくてもやりたい」と言ってくれて、とても感動しました。

彼女がまた友達に声をかけてくれて、内職さんの輪が広がっています。実は最初、工場に頼むことも検討したんです。でも、これはpeach heart brandとして初めて形になったものだから、ハンドメイドのものとして守っていこうと決めました。そうしてよかったと思います。工場に頼むと私と工場のやりとりで終わってしまうけど、手づくりだと、私と友達、その友達と色んな人を経由して、その度に想いがこもります。

もちろん、人とのやりとりって簡単ではないので大変なこともあるんですが、そうやって想いを共有し合うアイテムとして育てていけたらいいなと思っています。

“ 3.11を忘れないで”——時が経つにつれこういった言葉を耳にするようになりましたが、月日が流れる中で当事者ではない人が震災のことを忘れてしまうのは避けられないことです。でも、高橋さんのような形で関係する方が増えていけば、忘れようがありません。福島に住む小笠原さんが企画したものを、東京の女子が形にして、福島や全国の女子が身につける。女子たちが地域を越えて支え合うこの状況が、小笠原さんにはとても嬉しいのだといいます。

小笠原さん:最初は私がひとりでつくっていたものが、少しずつ形を変えて広がっています。けっこう難しい部分もあるのでみなさん苦戦されるのですが、「応援したいから頑張ってつくるよ」と言ってくれたりして。そういう人たちに、本当に救われているんです。

内職さんのおかげでHPの製作や新たな商品企画をする時間ができ、会津地域の特産品である会津木綿を使ったマスクや、ロゴが入った七宝焼のピンバッジもpeach heart brandのラインナップに加わりました。peach heartのメンバーが立ち上げた『女子の暮らしの研究所』の『ふくいろピアス』も小笠原さんのデザインです。

小笠原さん:自分が企画したものが形になる嬉しさって、やっぱり格別で、一度経験するとハマってしまいます。それがあるからやめられないんですよね。

全国の女子たちでつくりあげていくブランドとして育てていきたい

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自分のブランドを立ち上げようと福島に帰ってきた小笠原さん。当初想定していたのとは違った形でものづくりをしているいまの状況を、どう感じているのでしょうか。

小笠原さん:全ては震災からなんですよね。震災がなかったらpeach heartのメンバーにも出会っていないし、マスクもつくってなかった。そう考えると不思議な気がします。

私自身はとても中途半端な被災者なんです。津波で家が流されたわけでもない、大事な誰かや故郷を失ったわけでもない。自分より辛い想いをしている人がたくさんいる中で、何もできずモヤモヤしていました。だから、peach heartと出会って、自分にできることが見つかってすごく救われたんです。

福島に帰ってくるときに想像していたこととは全く違ってしまいましたけど、peach heartだからできたこと、出会えた人もたくさんあって、それは本当によかったなと思っています。

「遠く離れてはいますが、一日でも状況がよくなることを祈っています。一緒に前進しましょう」「福島へ愛をこめて」——peach heartのサイトでは、マスクを買ってくれた人のメッセージ付き写真を掲載する「ガールズマスクプロジェクト」を行っていて、たくさんの女子たちが福島への想いを寄せています。

小笠原さん:買ってくれた方がどんなことを想っているのかが伝わりますし、本人もあとから「この時こんな表情していたんだ、こんなふうに考えていたんだ」と思い返すことができますよね。ただ買ってもらうだけの商品じゃなくて、こういったつながりもあるのがpeach heart brandの特徴です。

商品をつくってくれる内職さん、イベントでの販売を手伝ってくれる売り子さん、撮影をしてくれる写真家さん、ほんとうにさまざまな方が手伝ってくれています。女子たちが自分にできることで関わる参加型のブランドになっているのが嬉しいところですね。

「福島のブランド」と限定するのではなく、全国の女子たちでつくりあげていくブランドとして育てていきたいと思っています。

女子にとって、「可愛いもの」は大きな力を持っています。それがあるだけでその場がぱっと明るくなり、初対面の人同士でも一緒に「可愛い!」と盛り上がってしまう。暗くなりがちな状況の中、ものが人の気持ちを和ませ、縁を繋いだ、という側面もあるのかもしれません。

小笠原さん:そう、ものの持つ力ってすごいんですよね。
いまは添加物とか大気汚染とか、さまざまな問題がある時代です。病気や障害を抱えた方や子どももいるし、いつどこでどうなるかわからない。今回は福島にスポットが当たっているけれど、ゆくゆくはさまざまな問題を抱えた女子を支えるものづくり、商品展開をしていけたらいいな、と考えています。

ものづくりにはそうしたやりがいや楽しさもありますが、独立してやっていくのはとても難しいこと。それでも小笠原さんは、やめたいと思ったことはないそうです。

小笠原さん:昨年、イベントに出店したときに、「福島女子がんばれ」という手紙とクッキーを持ってきてくれた方がいたんです。昔行ったpeach heartのイベントのユーストリーム中継を見て、「ずっと気になっていた」って。「応援してくれている人がいたんだ」って、感動しちゃって。「これは続けないとな」って、火がついてしまいました。そういう感動の連続だから、やめられないんです。

2013.4.17