物語後編

しまくま・あいくーの冒険

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しまくまやあいくーは、福島県内のお店のほか、インターネットや各種イベント・展示会で販売しています。「初のお江戸上陸だね」「美術館のステージに立つんだよ」——庄子さんをはじめつくり手のみなさんは、自分の子どもの旅立ちを見守るように送り出しています。

谷津さんの友人で、會空の製品をネットで販売してくれる折出侑さんという青年もいます。工房に通って話をし、ワークショップにも参加するうちに、「売りたい」と言ってくれました。折出さんのブログからは、しまくま・あいくーに対する愛情を感じると庄子さんは嬉しそうに話します。

庄子さん:「もっと高く売れるように僕は頑張る」って言ってくれてるの。私たちが少しでも潤うように。

そしてね、買ってくれた方の話を教えてくれるのよ。ある家では、猫がしまくまを大好きになっちゃって、必ずそばで寝るんだって。またある家ではね、飾っていると娘や孫が来ると「可愛い」ってみんな持っていっちゃうから、って言って何度も買ってくれるんですって。彼もそういう人との関わりがすごく楽しいらしいし、私たちもそういう話を聞くと嬉しくなるのよ。

やっぱりね、売ってもらっても、想いがないとつまらないよね。つくり手と売り手と買い手、この三者がうまくコラボできたときは、やっててよかったなって思う。ものづくりとは言っても、ものともの、ものとお金じゃない、人と人の関係なのよね。

會空製品のワークショップや展示販売をしてくれているアルテマイスターとも、利害関係を越えた想いでつながっていると庄子さんは話します。

庄子さん:出会いも劇的なんですよ。お世話になった博物館の職員さんに、お礼にしまくまのストラップをあげたの。その後、職員さんがアルテさんのところに立ち寄ったら、バッグについているしまくまを見て、アルテさんの営業の方が「これなになに」と興味を持ってくれて。ちょうど、次のワークショップの企画に悩んでいたんですって。そこにしまくまがやってきたものだから、すぐに話がまとまって、一ヶ月半後には実現しました。

アルテの社員の皆さんは、あいくー・しまくまをポケットに入れて、とても可愛がってくれているそうです。「會空」のロゴも、アルテの若い女性社員がデザインしてくれました。

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庄子さん:みんなで一緒に企画の打ち合わせをしていた時に、一所懸命何か書いてると思ったら、ロゴを考えてくれてたの。だから、それを使わせてもらっています。彼女がデザインをできることは会社では知られていなくて、この一件を機にすごく株が上がったんですって。だから自分でも思い入れがあるみたいで、ロゴがついた「あいくー」を一番先に購入されましたよ。

そうやって想いを持っている人にお願いすると、もっともっと想いが深まって、ものに宿るでしょう。私は損得よりもそっちを大事にしたいの。

會空の製品がたくさんの人に愛され大事にされるのは、何よりもつくり手の庄子さんたちがたっぷりと愛情を注いでいるからかもしれません。庄子さんは愛おしそうにしまくま・あいくーを眺めてこう言います。

庄子さん:この子たちはね、自分で営業するの。いろんなとこに連れていってもらって愛嬌振りまくから。アルテさんとのご縁だって、一匹のしまくまちゃんから始まったと思うと、すごいですよね。優秀な営業マンですよ。

踏み出すことで、先に進む力が得られる

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庄子さんたちが会津に来て2年。ここの暮らしにも馴染んできたといいます。

庄子さん:会津はいいですよ。雪は大変だけど。でも、あるときバスの中で見知らぬおばあちゃんに言われたんです。「おらもな、ここに来て何年にもなるけど、11月になるとこれから雪降るんだなって寂しくなる。だけど3か月過ぎれば雪もなくなるからって、そう思って十何年も暮らしてきた」って。

私の境遇を知って言ったのか何なのかわからないけど、それを聞いたら、この土地の人がそうして凌いできた歴史があるんだな、雪もひとつの文化だなって。そういう会津の想いを受けて暮らしていくしかないですよね。

会津は食べものがとっても美味しいんですよ。さくらんぼ、りんご、桃、苺、トマト、茄子、なんでもあるの。ほんとにいいところですよ。ここに来たのも運命だなって思っています。

ある日突然、大事な故郷と暮らしを手放さなければならなくなった苦しみと、ここでずっと暮らすのか、いつか戻れるのか、先のことがまったくわからない不安。そうした状況の中で、前を向いて新しいことを始めたのは、ほんとうに尊いことだと思います。

庄子さん:私たちには、一握りの土も残されていないんですよ。足を踏み入れる土がない、立つ場もない恐怖の中で生きていかなくちゃいけない。

「これからどうしていけばいいんだろう」という気持ちは、ほんとに、ほんとに切実でしたよ。先のことはまったくわからない。でも、わからないからといって何もしていなければずっとそのまま。だったら何かやろうって始めたのがものづくりでした。何かを目指さなければやっていけなかった、「いきがい」がなかったというのもあるかもしれません。

そうして動きはじめたら、ふしぎなご縁で、たくさんの人と出会って、人が人を呼んでつながっていって。ものが生み出されて、人の手に渡っていくって、すごいことですよ。そこには商品というひとつの形があるけど、それを超えた何かがつないでくれるという気がします。

ほんとうにありがたいのは、人とのつながり。こうなってはじめて、そのことがわかりました。震災がなかったら、あのまま大熊で、何をしていたかな。人生ががらっと変わってしまいました。

失ったものもたくさんあったけど、得るものも大きかったな。…なんて、そんなふうに思えるのは、贅沢だしありがたいことですね。

これまでのことを振り返り、しみじみ感じるのは、踏み出すことで得られる力の大きさだといいます。動けば動くほど何かに出会い、一つずつ勇気づけられて、前へ進む力が湧いてくる。

庄子さん:誰かに力を貸してもらって、自分の中から力が出て、それに押し出される。「じゃあやっていこうか」って進んできて、ようやく先が見えてきたのがいま。決して自分の力だけじゃないんです。それに「會空」のメンバーのおかげです。

だから私、何にも威張れないよ。みんなに支えられてきたんだから。これからは、その恩返しをしていかないとですね。

2013.4.17