物語後編

地元の力でどこまでできるか、という挑戦

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最初、このプロジェクトは引地さんの家族や同級生など身内から始まりましたが、紹介や口コミで徐々に人数が増え、現在は約30名がFUGUROづくりに携わっています。共生地域創造財団や英国商工会議所から助成金をいただいて事務所を構え、ミシンなど必要な機材や道具を揃えました。団体を一般社団法人化するための準備も始めています。

引地さん:何もかも初めてなんです。ものづくりも初めてなら、組織を立ち上げるのも初めて。お金のこともそう、在庫管理もそう。つくり手さんが製作してくださった分を必ず毎月お支払いする。そうするとその分、きちんと販売しないといけない。さまざまなことを同時進行で、実践しながら勉強している感じです。しんどくないと言ったら嘘になりますね。

最初は資料館の仕事と掛け持ちしていた引地さんですが、だんだんと作業量が増えていったことから、公務員を退職し現在はWATALIS一本で活動しています。そんな引地さんを支えようと、地元の方や外部の方が、様々なサポートを行ってくれています。

引地さん:私ができないものだから、その分みなさんがやってくださるんですよ。働き者で、休憩してくれって言ってもしないで働く人ばかり。ほんとうに助けられていますね。

まだ企業のようにしっかりとした組織ではなく、何もかもがない状態です。一緒によい組織を創りましょうという前提で人集めをしています。きちんと条件を明記しているから、それに納得した人だけが集まるんですね。外の人から知恵や知識を授けてもらいながら、地元の女性たちでどこまでできるか、っていう挑戦でもあると思っています。

つくり手は30代〜40代の主婦が中心。製作はそれぞれの自宅で行ってもらい、毎週月曜日に事務所に集まって納品・検品とミーティングをします。

引地さん:うち、かなり検品を厳しくしているんですよ。基準に満たないところがあれば、もう一度ほどいてやり直しです。泣きながら直しますからね、何度も。でも、みなさんそれをやってくださるガッツがあるんです。

品質に対するそうした真摯な姿勢は、商品を手にとってくださる方にもきちんと伝わっているようです。「丁寧」「可愛い」「センスがいい」——お客様からのお褒めの言葉が、WATALISにとって何よりの喜び。英国商工会議所からも支援いただき、英国の歴史あるテキスタイルファブリックであるリバティプリントとコラボレーションしたFUGUROも試作しました。

引地さん:やっぱり、人に認めていただいたくことはすごい力になるって感じるんですよね。誰だれがつくったFUGUROがイタリアに行ったよ、ってみんなで喜んだりして。そうすると、嬉しいじゃないですか。インターハイに向けて頑張る部活みたいな雰囲気です。目指すはオリンピックですよ!みなさんほんとに、心をひとつにして「よりよい品をつくろう」って励んでくれています。

一番嬉しいことは、人との出会い

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週に一度のミーティングでは、いつも誰かが手づくりのお菓子を持って来て、事務所には笑い声が溢れています。復興に向けて未来を描く人たちが集う、新たなコミュニティとなっているようです。

引地さん:昔ながらのコミュニティももちろん大事なんですが、そういうところは密接な分色々なものがくっついているんですよね。誰々の娘さんとか、どこに住んでいる、どこどこに所属しているとか。ここではみんな、そういうのと関係なく「つくることが好き」という共通項だけで集まっているから、自分自身が前面に出る感じなんです。それが嬉しいという人もいますね。

つくり手さんの子どもたちが事務所に遊びにくることもしばしば。引地さんは子どもたちに、「お母さんはこういう仕事をしてくれていてね、とっても助かっているのよ」と説明しているそうです。

引地さん:会社勤めだと、子どもは自分の親がどんな仕事をしているかわかりませんよね。どんなに一所懸命やっていても、仕事に対する想いや姿勢を伝えづらい。ここではちゃんと、そういうことを伝えて感じてもらいたいなって。
そういうのもWATALISの醍醐味なのかな。自分がつくったものが社会に出て喜んでもらえるのがわかるとか、家族に充実している姿を見てもらえるとか。仕事っていうものに、経済的な価値だけじゃないいろんな価値があるんだなって、WATALISを始めて実感しました。

FUGUROを亘理の伝統工芸品として育てること、縫製の仕事も請け負っていくこと、新たな商品を開発すること。出会った仲間たちと一緒にこの仕事を続けるために、WATALISは日々次のことを考えています。さまざまな人と交流できる場をつくろうと、事務所でセミナーや手仕事のワークショップも開きはじめました。

引地さん:来週は貝雛をつくるワークショップをするんですよ。その次はP&Gのメイクアップアーティストさんが東京からメイク指導に来てくれます。都会まで行かなければ参加できなかったようなイベントが、亘理でできる。いままでだったら会えなかったような人たちが、向こうから亘理に来てくれる。ありがたいことですよね。

一度都会へ出たけど、やっぱり自分の地元が好きで、戻りたい。でも、田舎では新しく人と出会うきっかけがないし、文化的な刺激がないから物足りないーー。そんな想いを持っている方は、きっと全国にたくさんいるのではないでしょうか。

亘理では、震災によって地縁や血縁のコミュニティが崩れ、まちの貴重な歴史・民俗資料も失われました。しかし、それをきっかけとしてこれまで積み上げてきた文化や風土が見直され、地域内外のさまざまな人がつながるようになり、そこに化学反応が起こっています。WATALISの活動はよりよい街をつくっていく一つのきっかけになっているようにも感じます。

引地さん:私、ここのまちで生まれて、ここのまちで育ったんですよ。でも、WATALISをやる前は知らない人がいっぱいいました。動いていくなかで新しい出会いがあって、再会もあって、関係が深まって。WATALISをやらなければ出会えなかったと思うと、大変だったけどほんとうに始めてよかったと思います。なんだろう、大好きなんですよね。みんなのことが。

2013.1.23