つくり手インタビュー
自分が育てるときもこれがあったらよかったな
お母さんたちが集まっていたのは、仮設住宅のある『グリーンピア三陸みやこ』敷地内の集会所。「遠かったでしょう。おつかれさま」。リーダーの赤沼さんと数人のお母さんたちが、笑顔で迎えてくれました。

左上から時計回りに、
赤沼秋子さん、藤田千代子さん、若狭まきこさん、
掘子朝子さん、山崎整子さん
——みなさん、どうしてここに参加するようになったんですか?
掘子さん:編み物が好きだったんですよね。手仕事が好きで。
山崎さん:ハンモックに興味があったから。息子たちがアウトドア好きでキャンプに出かけるから、つくってあげられたらいいなあって。
赤沼さん:私はね、4月頃先生(みちやまさん)がたまたま私のお店(仮設店舗で営業中の『善助食堂』)に来ていて、「実はハンモック教えに来ているんです」っていうから、「えーハンモック!6月に孫が生まれるから編んであげたい」って。
それでお店の休憩時間に行ったんだけど、30分しか時間がなくてちょっとしか編めなかったの。そしたら先生が「じゃあ赤沼さん、明日までに編んで来てください。宿題です」っていうから、夜に必死になって編んで。
山崎さん:でも秋子さん、端っこ(リング)のやりかた判ってたじゃない。
赤沼さん:先生が「明日東京に帰る前にお店に寄って紐のところ教えますから」って個人レッスンしてくれたの。
先生がつくったのを見たらば、教わったのとちょっと違ったのね。リングのところにぽこぽこ突起があって。それがどうも魅力的に思えて、父ちゃんに「これどうやるの」って聞いて教えてもらって。
——旦那さんがご存知だったんですか?
赤沼さん:漁師だから。漁師は結んだりとか、上手だから。
山崎さん:先生が「赤沼さんは一番覚えるのが早い」って言ってたけど、二人の先生を控えていたから覚えがよかったのね(笑)
赤沼さん:でも次に先生が来た時に、「突起は一周ぐるっと糸を巻いてから、二周目につくるんですよ」って。先回りしちゃったのね(笑)
——最初は難しくありませんでした?
掘子さん:難しかったねえ。何回もやり直しして。まず結び方からね、「もやい結び」とか覚えていって。今は慣れたからいいけども。
藤田さん:先生がテキストつくってくれたんですよ。写真と文章でひとつひとつ解説してあるテキスト。
掘子さん:テキストがあったおかげで、先生が帰ったあともね、
わかんない時にね、必死になって見て勉強したの。
——いまはもう考えなくても手が動くんですか?
赤沼さん:慣れてくるとスイスイいくんだけどね。つくるのに間が空いちゃうとまた考えながら。
掘子さん:先生にはまだ言ってないんだけどね、毛糸でもつくってみてるの。
赤沼さん:ミニハンモックとかね、手提げとか、自分たちで工夫して。だってせっかく覚えたのに忘れちゃうといけないから。
——先生の指導は厳しかった?
掘子さん:教えるのは優しいけど、正確さには厳しいね。でも当たり前だもんね。
赤沼さん:赤ちゃんのための製品だし、お金をもらうんだものね。
——地道な作業ですけど、飽きちゃったりはしませんか?
藤田さん:地道ですけど、飽きないね。
掘子さん:飽きるっつうことはないね。疲れることは疲れて休むけど。好きな人が残ったんだろうね。
山崎さん:寝るのも惜しいって、23時ぐらいまでやってたりして。
掘子さん:次の朝起きて「あー間違ってた」って気づいてスタートからやり直したりねえ(笑)
——家族や友人につくったりもするんですか?
掘子さん:ここらへんに赤ちゃんいないから。借りてきたいくらい(笑)
でも、ブランコをつくって乗ってみたことはあるんですよ。みんなでかわりばんこに。ほらこれ写真。楽しそうでしょ(笑)
山崎さん:学童の子どもたちにも遊んでもらいましたね。
——つくりかたを一回覚えると、色々なことに応用できそうですね。
掘子さん:そうだね。おかげさんでね。
山崎さん:実際のハンモック作ってみようと思ってて、糸はもう取り寄せたの。でもなかなか。来年の夏かな。
赤沼さん:(ハンモック製作に必要な、大きめの)枠はどうするの?
山崎さん:枠はねえ、障子とかふすまを外して使おうかなって。先生に言ったら「なるほど」って。
——自分たちで出店販売することもあるんですか?
赤沼さん:盛岡の復興バザーには出展しましたよ。先生にね、「こういうバザーあるけど、先生ベビーハンモックを宣伝しませんか」って言ったの。
そのときちょうどたまたまベビーハンモックを買った人が見えてね、それが私が編んだハンモックで、すごい感動しちゃった。智ちゃんが写真撮ってくれたわ。ブログに載せるって。
掘子さん:よかったねえ。来年の春は、私も行くから。
——いままでで嬉しかったのはどんなときですか?
掘子さん:やっぱり完成した時は嬉しいね。あと、売れたとき。「売れました」って電話で聞いたときは嬉しかった。お金よりも、「認められた」って気がして。
赤沼さん:私はやっぱり盛岡でのことかな。智ちゃんと私と買った人と、みんなで泣きながら。3人でわああん、って。
——どうして赤沼さんがつくったってわかったんですか?
赤沼さん:メッセージカードも一緒に送ってるから。一枚一枚心を込めて書いてるんですよ。「楽しく編んだから楽しい人生を送ってください」って。
山崎さん:私は「3人の子どもを育てた私がつくりました」って。自分の時は背中におぶったり前にしたり大変だったから、「自分が育てるときもこれがあったらよかったなって思いながらつくりました」って。
——今後はどうしていきたいですか?
掘子さん:まあ、歳だからねえ(笑)でも、続く限りは。やっぱりね、何かやるっていうやりがいがあることが大事だから。
製作工程
ハンモック製作に必要なのがこの木枠。組み立て式で、簡単に持ち運びできます。網針にしっかり糸を巻きつけます。
お母さんたちが「こっちのほうが使いやすい」と提案し、採用になりました。
一列前の糸に網針を通して、編み込んでいきます。
うっかり網目を飛ばしやすいので気が抜けません。
ぎゅっ力を入れて糸を巻き、リングの部分を作ります。意外と力が必要です。
二重に糸を巻いて、強度を高めます。
「赤ちゃんが使うものだから、しっかりつくらないとね」。
完成!赤ちゃんがすくすく育つことを願って。
2012.11.21