物語後編
感性の琴線に触れるものを作れたとき

ストールを開発したのは、谷津さんが昔からファッション好きであることも関係しているのかもしれません。高校の頃は地元の服屋に入り浸り、バイト代をつぎ込んで服を買っていたそうです。
谷津さんは、その頃から会津木綿に注目していたのでしょうか。
谷津さん:いや、全然。そもそも会津木綿の製品を作ることにしたのも、“地域の特産品を活かした小物づくり”というコンセプトはウケがいいだろうと思ったからです。
そうあっけらかんと正直に話してくれましたが、今ではすっかり会津木綿に惚れ込んでいる様子。会津木綿の工場では、真剣な目で生地を選んでいました。素朴でどこか温かみを感じる柄の会津木綿は、デザイン次第で逆に新しさを感じる製品に変わります。
谷津さん:ものづくりの面白さを感じるのは、自分の感性の琴線を響かせられるものと出会ったときですね。他の人がどう言うかは置いといて、自分が“いいな”と思えるものを作れると嬉しいです。
逆に大変なことは、一定のクオリティを確保すること。意識が高くやる気があっても、縫製技術はまだ未熟な方もいます。「ミシンは使い古された技術なので、勝負するのが大変です。技術の差が歴然と現れて、どうしても比較されてしまうので。甘い基準でOKを出しても売れないし、念入りにチェックします」とのこと。お母さん達にやり直しをお願いすることもしばしばです。
谷津さん:縫子さんたちから喜んでもらえることはもちろんなんですが、今後は買ってくれる人の“嬉しい”も増やしていきたくて。最初は女性をターゲットにしていたんですけど、意外と男性が買ってくれるんですよね。思った以上に気に入って喜んでくれたりして。だから、いいものを作りたいですね。
目の前の人の喜びを追究する

順調に進んでいったように見えるIIEの歩みですが、谷津さんは「いやもう、常にしんどかったですよ」と振り返ります。
谷津さん:活動がある程度軌道に乗ったところで、本腰を入れて取り組もうと会社を辞めたんですが、経済的には常に苦しかったですね。今も楽ではなくて、助成金をいただきながら、コンサルの仕事をしたり、大学との恊働プロジェクトでお金をいただいたりして活動資金を稼いでます。最初は儲けが出ないような形でやっていましたが、今は活動を継続する為にもちゃんとIIEで利益が出るようにしようと思ってます。現在は任意団体ですが、そのうち社団法人やNPO法人になるかもしれません。
わかんないですけどね。状況は変わってくので、日々。
一年以上一人で活動してきましたが、緊急雇用創出事業の制度を利用して、2012年秋に新しいスタッフをふたり迎え入れました。ふたりとも谷津さんより社会人経験が長く、助けられているそうです。生産面でも販売面でも基盤が整い、次の展開を考えられるようになりました。
谷津さん:復興はどんどん進んでいくから、いま楽しみながら仕事をしてくれているお母さんたちも、いつかIIEを必要としなくなるかもしれませんよね。それはもちろん喜ばしいことですが、じゃあせっかく一緒につくってきた製品をなくしてしまっていいのか、というのは悩みどころだと思うんです。ぼくたちはそれに対してひとつの答えがあって。・・・障がいのある方に生産をお願いしたい、と。
IIEの製品は、素人でも作ることができるように配慮して設計しています。障がいを持っている方でも訓練すればつくことができるはず。障がい者の授産施設と既に話が進んでいて、手応えを感じているそうです。
谷津さん:正直まだどれ位のレベルにできるか不安はありますけど、工賃は逆にお母さんたちより高く設定するのもありかなと思ってます。
それは少し意外です。どうしてでしょうか?
谷津さん:人によってできることって違うでしょう。同じものを作っても、障がい者の方だと二倍の時間がかかるかもしれない。それなら二倍のお金を払ってあげたいと思うんです。お母さんたちより障がいのある方のほうがお金を必要としてるかもしれないし。ただ、こういうのを「差別だ」と言われる方もいたので、正直まだどうしていいかわかりません。まだまだ多くのコミュニケーションが必要です。

“一律いくら”と決めるのではなく、その人の状況に合わせて金額を決める。規模の大きな企業では、なかなか簡単なことではありません。小さな組織だからこそできる、きめ細やかな対応です。
そもそもストールを開発したのも、「複雑な縫製ができないお母さんのため」という側面がありました。糸を解いて結びフリンジを作るだけのストールは、不器用な方でも作ることができます。その分工賃は低くなりますが、お金よりも自分にできることを求めている場合もあるのです。「仮設で何もやることがないとつい暗くなっちゃうから、IIEの仕事があってよかった。ありがたいです、本当に」—ストールの製作を担当している渡邊さんは「ありがたい」という言葉を何度も繰り返していました。

新たな生業としてしっかり稼ぎたい人、“長期的に取り組める何か”を求めている人、子育ての合間にほどよく仕事をしたいという人。IIEの縫子さんたちが求めているものはさまざまです。谷津さんはそれをひとつにまとめようとはせず、「どうしたら目の前の人が喜ぶか」を追究しているようです。
谷津さん:一人ひとりのニーズに合った商品を開発して、いかにちゃんとビジネスとして回していくか。それを考えるのが僕の仕事ですね。
2012.11.13