つくり手インタビュー
やることがあるってありがたい
IIEの中でストール製作を担当している渡邊常子さんのお宅を訪問しました。渡邊さんは、原発事故を受けて楢葉町から会津若松に避難し、現在は仮設住宅で暮らしています。突然故郷を追われ慣れない土地で生活しなければならなくなった状況にありながら、渡邊さんはさばさばと明るく質問に答えてくれました。

——震災後、IIEの仕事をするまでは何をされていたんですか?
渡邊さん:何、ということもないですね。何もやることがなかったから。毎日悶々としてたかな。特に趣味がないもんだから。考えたら考えたで暗くなるじゃないですか、この災害でね、いろんなことがあったから。だから、やることがあるってやっぱりありがたいですよね。何も考えないで集中できるから。
——どれくらいのペースでつくっていらっしゃるんですか?
渡邊さん:ごはん食べ終わるとすぐはじめますよ。ちょっと手が空くとすぐ始めるかな。仕事というか、趣味になっちゃったような状態です。
——客観的に見て、このストールはどうですか?
渡邊さん:お洒落だなぁって思いますよ。「これならこういう色の服に合うな」「この柄ならアクセントとして」なんて想像して。使っていくうちにどんどん馴染んでいくと思います。谷津さんがいま巻いてるのもいい色よね。でも、私はまだ持ってないの。自分用に布を買ったんだけど、片方しかフリンジを作ってなくて。やっぱり自分のものだとだめよね、後回しになっちゃって。
——以前もこういった手仕事をされていたんですか?

渡邊さん:ないない、はじめて。現場の力仕事だったからね。
ここに来て谷津さんに出会ってよかったですよ、本当に。ぶき(不器用)の私でもできるから。これがもっと高度で、ここはこう縫ってこっちはこう縫って…って凝ったものだったら、無理だったもんね。最初は縫製の依頼もあったけど、やっぱり難しかったんです。そうしたらこのストールを提案してくれて。ストールは糸を抜いてフリンジを作るだけだから、「ああ、これ楽~!」って。できることがあるって、嬉しいですよ。
谷津さん:僕もつくってもらって嬉しいですよ。IIEの製品で一番売れている主力商品ですし。
渡邊さん:ほんと、とっても助かってます。ありがたいお仕事です。ましてね、そんなに売れてるとなると、がんばらなくちゃ。
製作工程
会津木綿の生産は1643年に始まり、
明治末期から大正の最盛期には30以上の織元があったそうですが、
現在は『原山織物工場』『山田木綿織元』の二社のみ。
ゴトゴトと凄まじい音が響く機織り場。使い込まれた織り機ひとつひとつから、
色とりどりの美しい模様が織り上げられていきます。
仕入れは谷津さんの仕事。製品になったところを想像しながら生地を選びます。
個人的にお気に入りの柄もあるそう。
仕入れた布をつくり手さんのところへ。
作業場はそれぞれのご自宅(仮設住宅)です。
まずは生地をストールの大きさに裁断します。
フリンジを作る為、目打ちやリッパーを使って縦糸を解きます。
7cm分、地道に一本ずつ黙々と作業。うっかり糸を切らないように、慎重に。
目や肩が疲れる作業ですが、無心になって没頭できるそう。
解いた糸を一センチ分ねじって結びます。模様のあるものは同色ごとになるように。
両方の端にフリンジを作ればできあがり。30分ほどでひとつ作れます。
“誰でも作れること”を目指して設計した商品。
「ぶきような私でも作れるから嬉しい」と渡邊さん。
1度洗いにかけて乾かし、フリンジにアイロンをかけて伸ばします。
最後にタグを取り付け、梱包します。
2012.11.13