つくり手インタビュー

どんな仕事も同じだけど、心込めてないと失敗するよね。

のどかな住宅街にある小さな庭付きの一軒家。

子どものいる家族が暮らしていそうなこの家が、『大槌復興刺し子プロジェクト』のオフィス兼作業場です。水・木は刺し子さんたちの集会日。つくった製品を持ち寄って納品し、製品にアイロン掛けをします。

この日、コースターを持って来たのは小國ナツエさん、佐々木ナヨさん、内金崎ひろみさん。刺し子のみなさんとテラ・ルネッサンスの鈴鹿さんが談笑しながら作業する中、お話を伺いました。

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——みなさんはいつから刺し子に参加されているんですか?

小國さん:ちょうど一年前じゃないかな。2011年の11月からですね。最初にお給料をいただいたのは11月30日でした。1,500円。

鈴鹿さん:すごい、覚えてるんですね(笑)

小國さん:覚えてますよ!嬉しかったから。

——どんなきっかけで刺し子に参加されるようになったんですか。

小國さん:あのねえ、仮設のおともだちが先にやっていたの。それで、あの人たちがやってるなら大丈夫なんじゃないの、って。一回目に行った時はやっていなくて、二回目は人がいっぱいいて入りきらずに帰ってきて、三回目にようやく教えてもらったんだ。

最初にこめっこ教えてもらったんですけどね、できなかったんですよ。簡単なようでね、難しいの。中々ね。いまんなればできるけど。一年も経ったものね。

五回目で完成したんだけど、うまくいかなかったから、自分で買い取ってもうやめようと思ったの。そしたら、「大丈夫ですよ」って1,500円くれたの。吉野さんが。「いいんです、もう辞めます」って言ったんだけど、なんとなくね、1,500円もらったら嬉しくって。「じゃあやってみますか」って、今まで続けてきました。

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鈴鹿さん:いまでは“コースターのナツエさん”ですよ。

小國さん:慣れないうちはやっぱり難しくて。このはっぱのところがね。

佐々木さん:足っこも難しいんですよ。

内金崎さん:でも、やっぱり数を重ねるうちにうまくなっていきますね。

——みなさんは、ずっと前からお知り合いだったんですか。

内金崎さん:私は初めて。お二人(小國さん、佐々木さん)は一緒に始めたんですよね。

小國さん:そう。でも、津波前はおつきあいがなかったんですよ、全然。避難所で隣同士になって、仮設住宅に入ってもお向かいさんで。それで一緒に刺し子を始めたの。

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——縁ですねえ。

佐々木さん:まるきりひとりっこじゃ続かなかったけどね。歩くのもね。

鈴鹿さん:お二人はここまで歩いて来てるんですよ。

小國さん:そう、30分歩いてきてます。歩けるうちは歩きます。お散歩のつもりで。

——えっ、こんなに寒い中を。

小國さん:年齢的にもね、足腰鍛えなくちゃ。昭和8年生まれだから。ほら見て、もう手も皺だらけ。

鈴鹿さん:以前年齢を聞いてびっくりしました。お若いしお元気ですよね。

——みなさん、ひととおりの製品を作れるんですか。

小國さん:私はコースター専門。せっかく覚えたのにさ、ほかのに手を出すとこっちがおろそかになっちゃうから。

鈴鹿さん:ひろみさんはTシャツとパーカーも作ってくれています。

内金崎さん:チェーンステッチを教わって。針持ったりするのは元々好きだったから、楽しくやってますね。

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——コースター一枚つくるのにどれくらい時間がかかるんですか?

佐々木さん:五枚全部つくるのに一日かかるかな。一日中ずうっとやっていますよ。

——つくることは楽しいですか?

佐々木さん:そう、楽しいですね。できあがると嬉しくて。「ああ綺麗だな」って眺めたり、「ここがちょっとまずいな」ってやり直したり。夢中になるとあっというま。

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——どんなことを考えながら刺しているんですか?

小國さん:うーん…何だろうね。「うまくできれば」という気持ちもあるし、その時その時。

内金崎さん:あんまり考えないでできるのもいいのかなあ。無心でできるからね。

佐々木さん:そうそう。

内金崎さん:でも、その時の気分によって、出来上がりが違いますよね。どんな仕事も同じだけど、心込めてないと失敗するよね。仕上がりも綺麗じゃなくて。

小國さん:それは感じますね。直しても直しても思うようにいかない時がある。

内金崎さん:製品を比べてみるとわかるんだけど、ひとつひとつ鳥の顔が違うんですよ。瞳っていうのかな、表情が全然違う。同じ人が同じ手でやっててもね、ひと針違うと全然変わっちゃう。表情豊かですよね。

小國さん:全部の製品が世界にひとつだけで、それもいいのかなって。

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製作工程

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こちらがコースターの材料。北海道のデザイナーさんがつくってくれた図案を、
岐阜にある『飛騨さしこ』さんが布の裏地に印刷してくれています。

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一針一針丁寧に刺し、模様が浮かび上がってきます。
二枚とも刺し終わったら、『大槌復興刺し子』のタグをつけて、
重ねて四辺のうち三辺をまつり縫いで縫い合わせ、
下書きの部分が隠れるよう裏表をひっくり返します。

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周りをぐるっと刺した後、最後の一辺を縫ったらできあがり。
タグには”槌”のマークが描かれています。

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作業場に持っていって納品します。品質にOKが出たら、
洗濯して乾燥させた後、アイロン掛け。

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完成!*の部分、鳥の表情、脚、まつり縫いなど、
ポイントポイントで難しい部分があるそう。
「なんちゅうこともないように見えるかもしれないけど、けっこう大変なのよ」

2012.11.22